【よるのうた】lowdown/boz scaggs と かばんのはなし
8月の夜、台風が接近している。その影響でダラダラと雨が降っている。男はウィスキーを柑橘系の炭酸ジュースで割り、それをさらに炭酸水で割ったものを飲んでいた。時間はまだ夕方四時で飲み出すにも少し早いが、他にすることもなかった。
気がつくと折りたたんだ布団を枕にして眠ってしまっていた。何冊かの本を散りばめて。
男はいつもそうなのだ、酒を飲みながら本を読もうとして失敗している。失敗するのが半ばわかっているのに何冊も用意するのだ。目が覚めて、時間をiphoneで確認するともう九時近い。このまま朝まで寝てしまおうかと思ったが、こうして文章を書かねばならぬことを思い出しイヤイヤ目覚めた。
何もかもうまくいかないような不吉な気分に襲われた。ありとあらゆる営みが無意味に思え、もう一度夢の世界に戻りたくなった。
しかし思い出せば夢だってロクでもないものだった。
嫌なやつがいじめられてるのを「やりすぎじゃないか」と思いながら傍観してる夢だ。その前はなぜだか上戸彩に殺されかけて、逃げ惑っていた。逃げ惑う途中、自販機で飲み物を買ったらお釣りが全て百円玉で返ってきた。財布の中は小銭が五百枚くらいになっていた。
でも男はわかっていた、こんなに暗い気持ちに陥る原因を。酒を飲んで寝るとかなりの高確率で低血糖気味になる。ただそれだけのことであって、ほんとうにはそんな気持ちではない。しかしそう思うと人の感情は、なんていい加減なものなんだろうと思う。自分が思ってるほど、自分自身なんてなくて、感情なんてそういったものが織り成してるだけなのかもしれない。そう思うと何かに悩むことなんてバカバカしい気もすれば、周りから受け取るものにもっと注意を払おうなんて思ったりもする。
とにかくそんなことをうだうだ考えても仕方がないので、体を起こし、シャワーを浴びて、歯を磨いた。掃除機をかけて、散らばった本をかき集め、ゴミをまとめて袋を新しくした。タブレットの画面を拭き、除湿をかけた。そこまでやってようやく生まれ変わった気分になってきた。
お風呂に入ると新しい人生が始まった気分になる。
ただ明日の荷物をまとめようとした時に、今抱えてる問題にもう一度直面させられてしまった。
鞄、だ。
男は普段、通勤に自転車を使うためリュックを背負っている。自転車はカゴのないスポーツタイプなのでリュックが一番いいのだ。ただこのリュックが曲者で、なかなかいいものに出会えない。だからずっと男はカバン探しに奮闘していた。
そもそも実はリュック自体、好きではないのだ。なんだかまるで小学生みたいな気になるし、両肩からこじんまりとした袋をぶら下げてるのはなんとも情けないように思えた。
そんな時ふと「ボブディランはリュックなんか背負わないだろうな」と男は思う。でも同時に「きっとディランならリュックを背負っても似合っちまうんだろう」とも思った。なんだか不公平な気もしたけど、でも仕方がない。男には最近口の周りに永久機関のように吹き出物ができる。「青春が始まった」ということにしているが、これも仕方がない。
どう足掻いたって自分を生きるしかないんだから、その役を精一杯務めるしかない。
もうからあげをあほみたいに食べるのはよそう。吹き出物の痛みを感じながら小さな決断を男はした。
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