【あさのうた】歩いて帰ろう/斉藤和義と夢の電車、不思議な電車の話

電車に揺られながら、過ぎ去ってく線路を眺めるのが結構好きです。

あまり混んでない時間で、ふいに後ろの窓を振り向くと、どんどんと線路は流れていく。空はどこまでも青くて、小さな雲がちらちらと浮いてる。電車に乗ってるのは、遅刻したのかサボったのかわからないような高校生に、どこにいくのやら検討もつかないおばあちゃん。

平日のまっ昼間にどこかへ出かけてしまう、なんとなく秘密を分け合ってるような気がする。

高校生は本を読み、おばあちゃんは前をただ見据え、ぼくは外の景色をぼやあっと眺めてる。誰も何も余計な音も立てなければ、動きもしない。時々高校生が本のぺージをめくるくらい。

どこの駅に着いても全然誰も降りなければ、乗ってくる人もいない。世界中の人はこの車内にいる人だけになっちゃったんじゃないかと思ってしまうような。

なんて電車に乗れたら、ぼくはもう一生どこまでもこのまま走り続けてくれないかなあって思ってしまいます。

でも東京の電車は何時に乗ってもだいたいそこそこの人がいるので、その思いはここにいる限り、叶えられそうもありません。残念。

昔こんな不思議なことがありました。

ぼくが大学を休学していて、ひたすらに暇だった頃、今から六年前です。あまりにも暇だったので、どこかに行こうとふいに思い立って伊勢神宮に向かった日です。

なんで伊勢神宮に行こうと思ったのかは全然覚えてませんが、まあどこでもよかったんだと思います。

その頃ぼくは名古屋に住んでいたので、電車で一時間か二時間そこらで着いてしまったと思います。確か。

その時乗った電車がまさに、今書いたような電車でした。

その時はぼくはおばあちゃんみたいに、ただまっすぐ前を相変わらずぼやあっと見てました。秋口で、ふらふらするには絶好の時期でした。

何駅か過ぎたあたりで、ぼくと同じか、もう少し年下の女の子が乗り込んできて、斜め向かいに座りました。

ヒョウ柄のパーカーにショートパンツといった格好でした。

一人で伊勢神宮にいく旅路の途中にしては、少しミスマッチな登場人物な気もしますけど、全然そんな派手な印象ではなかった。正直なところ可愛い子だったから「へー」なんて思って、二、三度目を向けてしまった。

とはいえすぐにどうでもよくなって、また自分の世界に戻ってぼやあってしていた。

そうしてまた何駅か過ぎた頃、急にその子は「すくっ」と立ち上がり、何度か周りを見て、こちらに向かって歩き出しました。「ああ、降りるのかなあ」なんて思ったいたら、ぼくの横にちょこんと腰を下ろしました。

もちろん周りの席はがらがらだし（というよりぼくら二人以外には誰もいなかった気がする）、わざわざぼくの横に座らなくともいくらでも席はある。

ぼくは一体なんなんだろうと、思っていたら、あっという間にその子は眠りに落ちてました。

ますますよくわかりませんが、悪い気もしなかったので、なんとなくそのままでいました。するとだんだんその子の首は溶けかけた氷に立てられたみたいに、だんだんとぼくの方に寄り添ってきました。

ぼくはもう何がなんやら。一体何が起こってるのか訳がわかりませんでした。

嬉しいような、ただ余計に疲れるだけのような、でもやっぱり嬉しいような。もうぼんやりすることも叶わず、ドキドキしながら時々その子の顔を覗き込んだりするしか無くなっていました。

「こうゆう時はどうするのが、正しいんだろうか」「もし同じ駅で降りたら、どうしよう」なんて色々考えてると、また最初と同じように「すくっ」と立ち上がり、その子はとある駅で降りてしまいました。

一瞬ぼくもここで降りてしまおうかと頭をよぎりましたが、結局そのまま扉は閉まり、ひとり伊勢神宮へ送られていきました。

はっきし言って伊勢神宮はただの旗みたいなもので、なにかがあればよかっただけで、全然興味もなかった。特に面白くもなかった。ぶらぶらとして、何してるんだろうと思いながら、何度かその子に声をかけて見なかったことなんかを悔やみながらまた名古屋に戻りました。

あれは一体なんだったんだろう。こうして記憶を辿って、文章にしてみるとますます「そんなことは起こってなかったんじゃないか」と思ってしまいます。

できることならもう一度、あんな不思議な電車に乗りたいなあ。

今回はダイジェスト版ですが、youtubeに公式にアップロードされてるものがありました。是非聴いてみてください。

歩いて帰ろう、いいですよね。

思わずどこかへ飛び出したくなります。